■ 検診施設への提言
塾長 馬 場 保 昌
 従来,X線検査と内視鏡検査は消化管疾患診断の両翼をなすと言われてきました.しかし,この検査体系は内視鏡検査の著しい進歩と普及によって,この関係は崩壊したと言ってもよいでしょう.内視鏡検査の有用性が一方的に有意であっただけでなく,X線検査の側にも原因があったと思います.それは,従来の検査の組み立ては拾い上げ検査と質・量検査の二段階に分けられていたことです.これによって,拾い上げ検査では異常所見の有無をチェックできる程度の質でよしとされ,画像の精度を真剣に追求しなくなり,検査の質が低下したまま経過して来たことです.

 ところで,経済情勢が不安な現在,低コストを第一とする胃集検屋が横行していることも無視できないでしょう.その実態すら把握ができないようです.入札制度を健全なものにするには,集検学会が学会方針として精度管理の強化と徹底を打ち出し,企業や団体に働きかけて実態を調査し,理解を求めるなどの対策を考えるべきでしょう.偽は偽でしかないと悠長に考えていると,通念上それが真に変わることがあるからです.
 今,胃癌検診に求められていることは何か,そして何をもって応えるかについて私見を述べてみたいと思います.

 胃X線検査の質に関しての確かな事柄について挙げることにします.まず,術前の精密検査では小〜微細病変の描出,拡がり診断などでも内視鏡検査に匹敵するだけの画像の質と診断力は十分にあることです.つまり,撮影法や検査手技そして診断には問題はないのです.
 次に,近年では高濃度造影剤の開発や鮮鋭度に優れた撮影装置の改良・開発によってハード面が整い,さらに胃集検という厳しい条件設定のなかで撮影法の選択と手技の工夫によってソフト面が強化され,間接X線画像は見違えるほど鮮鋭になってきたことであります.これは,従来の検査では二重造影法の運用の仕方が間違っていたことを証明しています.この新しい間接撮影法は集検学会(2002年)に新・X線撮影法の基準として答申されています.

 検査目的やX線検査を取り巻く環境つまり条件設定は厳しいものがあります.その中で,検診精度を上げるにはどうすべきか.それは,集検と言う環境や条件設定を考慮した上で,最良の撮影法を選択し,その撮影法の利点を最大限に引き出すための手技の工夫を行うことしかありあません.そのようにすることで,画像の質は上がり,発見成績なかでも早期癌率が向上することは,我々の成績から見ても明白であります.同じ撮影法を取り入れることで,施設が異なっても高い発見成績とくに早期癌率を得ています.これは,新・撮影法が正しいことを証明していることになります.

 ところで,当然の結果ではありますが,胃集検間接撮影に新・撮影法を導入し,画像精度を上げることによって,内視鏡検査の欠点が見えてきました.内視鏡検査を批判するつもりはありませんが,最終的な検査として絶対であるとの認識に対して警鐘をならしたいのです.

 胃癌検診におけるX線検査の選択について考えてみることにします.X線検査には従来より1)粘膜法,2)充盈法,3)二重造影法,4)圧迫法の四大撮影法があって,それぞれに優れた面と弱い面があります.この四大撮影法は全てに行わなくてはならないと言う訳ではなく,検査目的あるいは状況によって選択し,検査を組み立てる必要があります.胃集検間接撮影では,撮影枚数や撮影時間など厳しい制約の中で最良の画像を撮影することが求められています.しかし,造影剤や撮影法の選択,体位変換や撮影の工夫もせずに旧態依然とした検査を行っている施設がまだ多いようです.従来のX線検査では粘膜像からはじまり,充盈像から二重造影像そして圧迫像で終わることが一通りの検査として常識化されていました.これはこれでよいのです.

ところが,局面が大きく異なる胃集検間接撮影においても,従来の胃X線検査の通念で充盈法は欠かすことができないとする人が多いのです.早期胃癌のような微細な病変の描出に限ると,充盈像よりも二重造影像のほうがはるかに優れていることは明白です.そして,腹臥位二重造影像を撮影するには充盈法で使用する造影剤量は多すぎるのです.充盈法を必要とする人の中で,所属している施設の二重造影像が悪すぎるので充盈像で補いたいとする人はまだよしとして,重要な地位にありながら見慣れた充盈法があると安心だとか,挨拶代わりみたいなものだとか言ってとぼけている人はどうかと思います.造影剤がよくなり,撮影手技とくに体位変換の仕方を工夫することで,これまでの間接撮影には見られなかった鮮明で微細な粘膜変化が表れる二重造影法を中心に撮影を組み立てるべきです.どんなに優れた撮影法であっても完全ではありません.必ず問題は派生します.それを真摯に受け止めて,問題解決のために思考し,実践して行くことこそ大切なことではないでしょうか.

 今こそ,癌検診は量から質へ変換を計る時期です.胃集検の基本理念,すなわち“救命可能な胃癌を発見することで社会に貢献する”にもとづき使命を果たそうとする姿勢こそが,多くの人々の理解と納得と信頼を得る原点であると考えます.

某年 吉日(研究室にて)