NPO法人 消化器がん検診精度管理評価機構による基準撮影法(1法・2法)や日本消化器がん検診学会での新・撮影法(対策型・任意型)は,全国で概ね認知されてはいるものの,実際に撮影された写真をみると,本当の意味で理解され浸透している状況にないことを改めて実感しています.検査で得られた写真の良し悪しは短時間の研究会や勉強会で得られる性質のものではなく,日々の研鑽から得られるものだと思うからです.
 写真の良し悪しを決定する二大要素は,撮影装置等のハード面と撮影技術等のソフト面ですが,


「馬場塾」では,X線や内視鏡写真はもとより,外科的に切除された標本の肉眼所見と組織標本が揃った症例を準備し,肉眼像の組織学的な成り立ちについてX線写真と病理組織像の,一対一の対応付けを行うことを基本として検討しております.こうすることが,適切な診断にはどの様な写真が必要なのかについて考える習慣を身につける最善の方法であると思っております.

胃X線検査は60年余りの歴史の間に,諸先輩が努力と熱意で築き上げてきた手法ですが,良い画像を得るには純粋な写真技術(フィルム・増感紙の選択や現像管理など)から,X線操作技術(物理的な),造影剤・発泡剤の知識などを理解したうえで,撮影技術(撮影体位や手技だけでなく撮影時のX線条件など)を習得するだけでなく,検査・撮影後にはそもそもの写真の良し悪し(写真本来の,形態診断としての,学術的な,等)を判断するまでが一連の作業となります.複数の要素で成り立つ画像であることから,ひとつの要素が合致しないと良い結果を得るのが難しいことはご想像の如くです.
それでも,他にX線検査に比類する検査がなかった時代は,多くの臨床医や研修医,技師が良い写真を求めていたことは確かです.

しかし,あまりにも複雑で専門的な技術を必要としたこともあって,時間が経過するに従い後継者は徐々に姿を消してしまいました.一方で1970年後半あたりから細径ファイバースコープの出現,1980年代の画像の電子化が実用化,セデーションの一般普及,更にはデジタルカメラ技術の医用応用が続けられ小型化と高精細化,高度な画像処理技術の採用などにより,生検組織の採取,粘膜切除といった治療に至るまでのX線装置にはない特徴と殆ど失敗がない写真撮影機能の自動化などにより,検者にも被検者にも楽な方法と認知され,現在に至っているように思います.
人間ドックに代表される「任意型」健診では潜在的な需要があるようですが,「対策型」検診の場ではいまだX線検査が中心になっています.その一番の理由はコストと認知されています.また,首都圏はともかく,地方の中小都市や市町村では,医師不足で需要に応じ切れていないのが現状のようです.

そのような背景から,X線検査は「検診」に生き残りの場を移したとも言えます.
検査には利点も欠点もあります.大切なことは,それぞれの検査の欠点ないし弱点をよく理解し,弱点を補う工夫をし,X線検査法の利点を最大限に活かすことであろうと思います.その第一歩がNPOの基準撮影法と言えます.この方法は手技が簡便で,各々の施設での検査技術や画質の優劣が明確になり,自施設あるいは自身の問題点を浮き彫りにできます.結果的に画質の改善に向かうことは,技術者の本能として明らかです.
特に近年は撮影装置のデジタル化にともなう画像の自動調整化が進み,高度な知識がなくても一定以上の画像を得ることができます.良い画像を得るための大きな要因が軽減されたことで,より検査・撮影に集中専念ができる環境になったと言えます.

NPOの基準撮影法が一定以上の認知度を得て,現在ではStandardと言える状況になりつつあるのですが,診断については基準が曖昧なままとなっています.2013年5月に「読影基準の設定に関する考察」と題して


ところで,装置や写真感材系の改善・改良はもとより,高濃度・低粘度造影剤の誕生が二重造影の利点を大きく引き出し,二重造影法の存在意義が再認識されつつあります.技術者個々が時代の流れに併せて変えるべき部分と,決して変えてはならない“研鑽”や“志”があることを認識する必要があります.
“丹念な観察”“詳細な分析”“十分な検討”を柱に,画像から病理組織学的構築像を類推する私共の思考診断学,そして一枚の写真に明確な意思を表現するための時間を,共有できることを願って挨拶とします.

                               2010年睦月 馬場塾塾長 馬場保昌